マトモな哲学のすすめ(9)

まず最初に、「学問」という言葉の定義をします。


世の中にはいろいろな問題があります。
いま言った「問題」というのは、「プロブレム」じゃなくて「クエスチョン」のほうなんですが。
で、そのクエスチョンに対して、考えたり、調べたり、実験してみたりして、何らかのアンサーを出そうとする。
そういうものを「学問」と呼ぶことにします。


次に、その「学問」は、大きく分けると「科学」と「哲学」の2つに分かれる、ということにします。
実際にどうか、っていう一般論でなくて、この先の話の前提としてですよ。
で、ここではいったん、「科学」が何で「哲学」が何か、という話はとりあえず置いておきます。


ここまでいいですか。・・・大丈夫そうですね。
それじゃあ、ここから本題です。いくつか質問を出すので答えていただこうと思います。



まずは野球の話。
野球は、ピッチャーがボールを投げて、バッターがバットでそれを打ち返すスポーツですね。
で、野球の選手がいて、その人はバッターなんですが、ピッチャーが投げた球をどの角度で打ち返したら一番遠くまで飛ぶのか、を知りたいと思っていました。


今の話ですが、これはさっき言った「世の中にあるクエスチョン」の一つですよね。
ということは、それにアンサーを出すのは学問の役目ということになります。
そこで問題。
今の疑問に答えを出すのは、「科学」でしょうか、それとも「哲学」でしょうか。


二択なんで手をあげてもらおうかな。
まず、「科学」だと思う人、手をあげてください。・・お、全員。
次、「哲学」だと思う人、・・・ってそりゃそうですよね。


ちょっと聞いてみたいんですが、Aさん。
さっきの野球選手の質問に答えを出すとして、その「科学」の具体的な分野は何だと思いますか。
・・・そう、物理。物理学ですね。いいですよ。



じゃあ次のシチュエーションに移ります。
今度は、プロサッカーチームのオーナーの話です。
持っているお金でなるべく強いチームをつくるには、どんな選手や監督を集めたらいいか。


これもクエスチョンですね。
それじゃあ、さっきと同じ質問です。
このクエスチョンにアンサーを出すのは、「科学」でしょうか、「哲学」でしょうか。


さっきと同じで挙手してください。
「科学」だと思う人。・・・全員ですか。なるほど。


それじゃあBさん。
なんで「科学」だと思ったんでしょうか。
なんとなく。そうでしょうね。
「科学」と「哲学」の二択なので、「哲学」じゃなさそうと思ったから、という感じでしょうか。
うん、いいんじゃないかと思います。


じゃ、次にCさん。
前と同じ質問です。その「科学」の具体的な分野は何だと思いますか。
・・・何でもいいですよ。思いついたものを適当に答えてもらえれば。
・・経済学。お金の話だからそうですね。それとも経営学、というところでしょうか。



それでは、次のシチュエーション。
今度は短距離走の選手なんですが。
この人、試合前のドーピング検査に引っかかって失格になってしまいました。
選手が一言、「えー、なんでドーピングしちゃいけないの?」


これはこれで立派にクエスチョンですよね。
というわけで、また同じ質問します。
これに答えを出すのは、「科学」か、それとも「哲学」か。


挙手で答えてくださいね。
それじゃ、「科学」だと思う人。・・・おお。
次に、「哲学」だと思う人。・・全員ですね。


そうです。この問題に答えを出すのは「哲学」の役目。
具体的には「スポーツ哲学」とか「スポーツ倫理学」と呼ばれる分野になります。
皆さん正解です。



ここまで、問題の種類に応じて、それに対応するのが「科学」なのか「哲学」なのかを見てきました。
どれが「科学」の問題でどれが「哲学」の問題なのか、皆さんは全問正解されたことになります。
ということは、「科学」と「哲学」の担当分野の違いというものを、感覚的にでもわかっていた、あるいは、わかってきた、ということなんではないでしょうか。


今まで「哲学って何だかよくわからない」と思ってた方もいるかと思います。
でもここまでの話で、哲学と科学は担当する問題が違っていること、哲学には哲学独自の意義があることが、なんとなくのレベルで理解していただけたのではないかと思います。
その理解をもっていただくことが今回のお話の目的でした。


次回は、哲学をより身近に感じていただくために、「哲学的わるぐち」をテーマに話をします。
クリシェルサンチマン形而上学、・・・あと相対主義とか。
哲学にかかわる人もやはり人の子で、「論争」という名目でよく悪口の言い合いをしています。
その面白みを感じていただきたいのと、その一方で、「なぜそれが悪口ということになるのか」を知ることは、哲学の一歩進んだ理解につながると思っています。


以上で「哲学入門」の一回目を終わりにしたいと思います。
ありがとうございました。




・・・という、以前から内輪の勉強会向けに考えていたネタを、『数学ガール』風にしたためてみました。
しかし、このタイトルの記事としては実に7年ぶりですか~。時の経つのは早いもので…


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