生活リストラ作戦(5)

今回の生活リストラで読んだ本を紹介します。
この何倍かの本を同時期に読みましたが、中でおすすめしやすいものを選びました(マクロ経済や会計の基礎もあらためて再勉強中だったりします(^^;)。


月光! マネー学

月光! マネー学

なっとく!マネー塾

なっとく!マネー塾

かなり多くのことにあまりこだわらないタチで、お金についてもぼくはもちろん疎いです。そんなぼくが生活リストラを始める気になったのは、不況による仕事減・収入減と、日本の将来のなさそうな感じに危機感を覚えたからでした。
お金のことについて知らなければいけない。
この3冊は、そんなぼくにとてもぴったりな本でした。


お金の基本について、ひととおりのことがとてもわかりやすく書いてあります。著者が日経新聞の編集者であることも、あやしい話の多い金融関連書の中でひときわ光る信頼感があるのではないでしょうか。
この本、いきなり投資の話から入るのが(読んだ当時)未経験のぼくには驚きでした。ただ、これから先の見通しの暗い日本社会に生きる人間として、これらのことはむしろ「常識」として知っておかねばならないことなんだな、と意識を改めるよいきっかけになったと思っています。
ざっと流し読むのには田村正之『月光!マネー学』がおすすめです。書名と装丁は悲しくなるほどダサいですが(^^;それでも内容のよさには太鼓判を押せます。で、この内容を1.5倍にして雑談を0.5倍足して2冊の本にしたようなのが『なっとく!マネー塾』だと思ってもらえばそう間違ってはいません。
とりあげているトピックの幅広さという点では後者のほうが広いんですが、ひとつ問題がありまして。親近感を出すためだと思いますが、この本は「ある家族が専門家に教えてもらう」という体裁をとっているのが裏目に出ていると思います。この家族は夫・妻・娘の三人構成なんですが、妻の夫に対する(ある意味リアルな)イヤミの連発が、もう心にグッサグサ(^^; やっぱり不評だったのか、下巻(?)ではだいぶ鳴りを潜めてました。


内藤忍の資産設計塾―あなたの人生目標をかなえる新・資産三分法

内藤忍の資産設計塾―あなたの人生目標をかなえる新・資産三分法

内藤忍の資産設計塾 実践編 ―自分も資産も成長する新・資産三分法

内藤忍の資産設計塾 実践編 ―自分も資産も成長する新・資産三分法

投資を始めるにあたって読んだ入門書の中でおすすめできるのはこちらです。
投資とは何か、どのように考えて投資すればよいか、どうやって投資すればよいか、といったことについて、地に足のついた理念、豊富なデータ、具体的なやり方を示すこの本は、少なくともぼくにとっては力強く背中を押して投資の世界に飛び込ませてくれた導きの手となりました。好んで引用されるチャップリンの「(人生に必要なものは)愛と勇気とサムマネー」*1をはじめとして、著者の人柄が偲ばれる意味でも読んでいてスーッとする本でした。
まあ、投資を始めるには1年ばかりタイミングが遅かったんですが(^^; 今でも遅すぎるわけではありませんし、最終的に右肩上がりならいつ始めても問題ないわけで…。あと、著者はネット証券大手「マネックス証券」の人ですが、その人の勧めにしたがいながら、マネックスに口座をもっていないという不義理を働いてしまいました申し訳ございません(××; 現状のサービス内容や評判からして、口座を開設したSBI証券楽天証券に比べ一歩後退してる感が強かったもので…。がんばってください、ぼくもがんばります。


投資戦略の発想法〈2010〉

投資戦略の発想法〈2010〉

超簡単 お金の運用術 (朝日新書)

超簡単 お金の運用術 (朝日新書)

これまで紹介したものに比べると、ややヘソ曲がりな立場から書かれたこの2冊もそれぞれなりにおすすめです。
「投資はこのようにやるのが正道」という内容なので、本来であれば投資を始める前に読むべき本ではないかと思わなくもないんですが、ある程度知った人(知った気になっている人)に一番響く内容となってますので、入門書を読み終え、いろいろ気になりだしてさらに勉強を進めているところで読むと効果的と思います。


前者の本は「何年版」というかたちでしばしばリニューアルされており、ぼくが読んだのは2005年刊と少し古いものでした。他の本のような能天気さはなく、とにかくこれでもかと現実を見せつけて、まずは実生活を何とかしろ、それで問題なければ初めて株を買え、という超堅実的な内容。投資を始める前の「覚悟」を試す意味で読むといいと思います。
ただ、実際の投資に関するアドバイスについては、何らかの意図があってのことか、個人投資家の利益に必ずしもそぐわない方向への誘導が感じられ、その点については信用ならないと思いました。日本株式への全力投資を勧めるところや、大昔にさかのぼって「株価が何百倍になりました!」とするグラフの頻出、そして時事ネタのつもりかわかりませんが粉飾決算で投資家に迷惑をかけたホリエモンをやたらヨイショする姿勢。そういえばついこのあいだ、この著者の設立した日本振興銀行銀行法違反容疑で捜査のメスが入り、会長から解任させられてしまいましたね。


後者の本は何というか、IT技術者向けにたとえるなら「投資版256倍」*2とでも呼べそうな…。今回紹介した中では一番「面白く読めた」本でした。ただ、この本が示す選択肢はたしかに「超簡単」なんですが、「ETF」といった単語が説明もなしに出てきたり、「海外ETF」をすすめるあたり、まったくの初心者ではなく、少しは知識も経験もある初級者向けに書かれた本なのだと思います。
この本の著者の山崎元は、この本でも他の本でも「ドルコスト平均法は特に有利というわけではない」「時間分散投資も別に有利ではない」と繰り返し主張しています*3。そのようなことを言っている人がぼくの知る範囲では非常に少ないですが(少ないからこそ強調するのだと思いますが)、論旨を読むかぎり──もちろんぼくの投資の知識がほとんど0だということを念頭に置いていただいて(^^;──山崎元の主張が正しいとぼくには思われました。


最後はこちら。


借金を返すと儲かるのか?

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12歳でもわかる!決算書の読み方~お金のことを知らずに「社会人」になってしまった人の会計入門~

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決算書の暗号を解け! ダメ株を見破る投資のルール

決算書の暗号を解け! ダメ株を見破る投資のルール

一冊目は以前とりあげたことのある『新卒はツライよ!』の著者による、主に自由業者にあてた税金対策の入門書。平凡な会社員のぼくには直接関係なかったり、知ったところで選択しようがない話がほとんどでしたが、それでも「税金」に対していろいろ考えさせられるいいきっかけを与えてくれました。
投資には「源泉課税か申告課税か、総合課税か分離課税か」等々と税金の問題がついてまわるので興味自体はあったんですが、ぼく自身が生来「種々雑多な個別例外ルールの寄せ集めと見えるもの」に忌避感をいだく人間なので──法律や会計、語学や化学などに苦手意識をもつ反面、哲学や数学に強くコミットするのはそのためです──手を出しかねていたんですよね。その点本書はコミカルな絵やブラックユーモア(?)満載で楽しみながら読めたのが大きかったように思います。


次の岩谷誠治の手になる二冊は、財務諸表の仕組みやその読み方を、いくつかの「会計の公式」を駆使した「会計テトリス」として視覚的かつ形式的に解説する、驚くべき入門書。前者がその理論編、後者が実践編と考えてもらえばよいでしょう。
ぼくにとって「会計」は、個人的には「貸方・借方」をはじめ何だかよくわからない「固有名詞」「決まりごと」の集まりのようで正直避けたいものでありながら、一方で金融SEとしては基礎的な素養として体得しておかなければならないものでもある、というジレンマに悩まされていました。ところが、この本で説明された「会計の公式」を当てはめてみると、確かにそのとおりに表が“動いている”ことを実感することができ、まさに目ウロコ、「エウレカ!」と叫びだしたい気持ちでいっぱいになりました(^^)


ところで、いくつかの本を読む限り、ぼくのような素人投資家にも可能な投資のテクニックは大きく分けて3種類になるようです。「テクニカル分析」による投資、「ファンダメンタル分析」による投資、そして「インデックス投資」。テクニカル分析とは株価のチャートから値動きを予想する方法、インデックス投資とはその金融市場のインデックス(指標)にかける投資法で、この二つは直観的にわかりやすく親しみやすい方法と言えます。
これに対してファンダメンタル分析は、決算の数字を細かく見ていく中で買うべき銘柄・売るべき銘柄を判断するというような、とても専門的かつ面倒なアナリスト向きの手法なのです。だからと言うべきか、EPS、PER、PBR、あとβ値ぐらいを申し訳程度に軽くなでて素通り、というのがたいていの(市井の個人投資家向けの)投資指南書にある“説明”でした。そこで得た知識からわかることは、「なんとなく割安」「なんとなく割高」この程度にしか過ぎません。
ぼくは会計の基礎を勉強したばかりのとき、なぜこの世に「決算セール」や「粉飾決算」というものが存在するのか、まだ理解ができませんでした。しかし、「四季報相場」ということばのあるように、なんだかんだ株式市場は決算の数字につられるのです。*4だとすれば、企業が決算の数字を、自分の都合のいいようにいじりたくなる気持ちもわかります。逆に言えば、そのようにいじられる決算の数字を素朴に信じて、「お、好調だな」「割安だな」といって手を出すのは愚かでしょう。


有名な著者の手になる最後の一冊は、「“裏”ファンダメンタル分析」とでも言うべきか、いろいろな目安をもとに「うさんくさい決算・ヤバそうな会社」を探す方法の入門書と言えます。
日頃市況につられて売り買いを行いながらも、決算が近づいたらいったん気を落ち着けて、素人なりにこれまでの決算の数字を追いかけてみるのもいいかもしれません。日航ライブドアで流した涙をふたたび繰り返さないように…

*1:映画『ライムライト』でチャップリンがヒロインである失意のバレリーナを励ましたときの台詞の一部です。実際の台詞は "Yes, life is wonderful, if you're not afraid of it. All it needs is courage, imagination, ... and a little dough." 「そうだ、人生はすばらしい、恐れなければ。そしてそんな人生に必要なのは、(その困難に立ち向かう)勇気と、(そのすばらしさをめがける)想像力と、…あとお金が少々。」ということらしいです。が、これには議論があって、littleの前の「a」は本当はないんじゃないか(「a little」だと「わずかの」、「little」だと「ほとんど〜ない」なので、つまり "and little dough" =「お金はいらない」)という説もあるようでした。

*2:十年ほど前にアスキーが刊行していた『○○を256倍使うための本』というシリーズがありまして、わざと露悪的に書いている部分を太字明朝体でデデンと強調する「独特のスタイル」がウリでした。「256」という数字にしろその楽屋落ち満載の内容にしろ、いかにもオタク風な感じで、好ましいとはとても思えないけどそれでも面白がれちゃう自分はやっぱり…とヘンにアンビバレンツな感情をかきたてられたことを思い出します(^^;

*3:たまに誤解する人がいるので補足します。「有利でない」ということは「不利である」という意味ではありません。山崎元の意図は、それらの投資手法は状況に応じて有利にも不利にもなるものなんであって、常に有利に働くかのような広く信じられつつある「ウソ」に対して釘を刺しているのです。

*4:東証一部の売買金額に占める個人投資家の割合は25%。ということはつまり、差し引きで株の75%は専業のプロが動かしているわけですから、こうなるのも当然といえば当然なのです。参考まで、「東証:投資部門別売買状況