仕事、人生、そして教育(3)

最初にこれだけは言っておきたいと思います。
転職しようと思っているにせよそうでないにせよ、25歳を過ぎたらできるかぎり早いうちに、一度は本格的な転職活動をしてください」、と。
転職活動を通してぼくが得た一番の教訓は、これに尽きます。


山一証券が潰れたことで(?)、世の中の「会社」ひいては「しごと」に対する見方は大きく変わりました。
ここで注意すべきは、変わったのは“現実”ではなく、それに対するものの“見方”、そして社会に存した暗黙の“了解”であるということです。もちろん中小企業は以前からできたり潰れたりを繰り返してきたわけですから。しかし大手だから安心できた時代も終わってしまった。それは単に「大手でも潰れる可能性がある」というに留まることではありません。たとえ潰れなくても、リストラで簡単に自分の首が飛ぶのです。要するに、この日本の「しごと」のほとんどが、明日をも知れない「不安な」ものへと変わってしまいました。
巷間言われる「終身雇用制の崩壊」というものの社会心理的な“像”とは、だいたいこのようなものでしょう。それは実際に終身雇用がかなわないか否かによらず、「終身雇用」というものが体現してきた「安心」の崩壊なのです。


終身雇用制が崩壊したということは、同じ会社にいつまでもいられないということ、要するに、「歳をとってから転職する可能性がある」ということを意味します。
その理由はいろいろありうるでしょうし、転職の内容についても様々でしょう。うまい具合に自分のキャリアに“まだ”需要があって、経験者として転職できるならいいことでしょうが、変化の早い今の時代、いつ何どき自分の培った技術やキャリアが“パァ”になるか、知れたものではありません。もしそうなったら、それまでの蓄えで何か事業を起こすか、さもなければ未経験者として転職するか、ということになります。
世の中、社長の数と社員の数をくらべて見れば明らかなことですが、起業できる人は一握りであって、多くの人は後者の「未経験で転職」の道へと進みます。しかし、これは転職活動の経験者なら例外なく誰でも知っていることですが、転職にはいくつもの分厚い“壁”が存在することに注意しなければなりません。中でも最も厚く険しいのは、「年齢の壁」です。


年齢の区切りとしては、ぼくが転職情報に当たって受けた感じでは、新卒(22〜23ぐらい)、第二新卒(〜25ぐらい)、28歳、29歳、30歳、35歳、40歳、それ以上というぐあいに分かれているようです。このうち、あまり“ブラック”ではなさそうな会社で「未経験」で許される上限の多くは28歳、というのがぼくの印象です。また、29→30→31は一年刻みで求人が半分に減っていく感じがしました。30歳とその前後一歳の範囲で、求人がガクンと一気に落ちる。31以上はほとんど“ゴミ”扱い。
つまり、歳をとってしまったら、未経験の働き口はほとんどないわけですね。
あるのは、誰でもできるツブシのきかない仕事(≒薄給激務)、それも含めた離職率の高いブラック仕事がほとんどです。社員がすぐ辞めるから、「来るもの拒まず」でいちいち条件をつけていられない。マトモな会社が中高年の未経験者をとらないのはその裏返しであって、離職率が低いからその歳で教育等諸々のコストがかかる未経験者をとるメリットがないため、というわけです。
誰でもできる仕事はその分どうしても給料が安くなりますし、給料が安いから生活のためにも激務が当たり前となってしまう。アウトソーシング、オフショアなんて横文字で体裁を繕ってますが、要するにそうした仕事はこのグローバリズムの進む中、人件費の安い諸外国の労働者との競争に巻き込まれてもいます。かといって、その影響の少ない直接サービスなんかだとバイト・パートばかりですしね。その上、そうした仕事はたいがいが肉体労働=力仕事であって、歳をとって続けていけるかどうか。体が動かなくなってきたら、ポイ、ですよ。


そういったことを考えたら、自分の人生にどんな「転機」が訪れてもなるべく心配ごとが少なくなるように、ケツに火がつく前に避難の準備をしておく必要があるのじゃないか。それも、ただ単に端からボーッと眺めるだけじゃなくて、その訓練をしてみないことには、実際にその立場になったときにすべきことがわからないし、身にも付かないのです。
就職してすぐの間はいろいろ学ぶことが多いでしょうし、転職しようにも一度受けたところは門前払いを受ける可能性が高く、また「すぐ辞めるヤツ」という烙印を押されることにもなりかねません。一方、28歳を過ぎると、未経験での転職の可能性はブツッと断ち切られてしまいます。以上のことを鑑みれば、25歳を過ぎ、28歳になる前に、一度は本気で転職活動をしてみては、とぼくは思うのです。「成功の可能性」を考えたら、それ以外に適当な時期がありません。
また、いま自分が勤めている会社を、このまま勤め続けていいんだろうか、と見直すいい機会にもなります。他よりヒドイ待遇で働かされている可能性がありますから、そういう場合にはそこに勤め続けるほど損をしますし、一方、他よりよい場合もあり、そのときには安心して仕事を続けていくことができます。ちょっと苦しいな、と思っても、他に比べたらまだマシなんだから、と気を取り直せたりとか。


仕事がそこそこ充実していて、それなりにマッタリしていたりなんかすると、「転職」なんてことを考える気分にならないでしょう。
でも、流れの速い現在、その仕事でいつまで食っていけるかなんてわからないのです。あと何年したら自分はどんな立場になっていて、どんな仕事をしているか、明確に(エビデンスに基づいた?)将来像が描けますか? もしそうでないのだとしたら、マッタリ充実している今こそ、転職活動をすべきです。忙しくなったり辛くなったりしたら、その余裕が持てません。余裕のない、追いつめられた状態では、ちゃんとした判断と選択ができなくなります。
そのことはぼく自身が今回、身をもって経験しました。だいたい、自分よりベテランの社員があまりいないというところで、会社の異常さに気がつくべきだった。いや、「歳をとったらどんどん辞めていく」と、以前から話には聞いていたのです。が、その当時は仕事が軌道に乗っていくさまが肌で感じられ、ほどほどにマッタリしていたので、ほとんど「他人事」と無意識に聞き流していました。それがいざ自分に降りかかってきたときには、もうどうしようもなくなっていて。ほんとツラかった。


新卒新入社員の皆さん、あるいは現在就職活動中の皆さんには、そんなぼくの仕事人生を反面教師にしてもらえたらと思います。ご静聴ありがとうございました(^^;