今回のMMD杯で思ったこと

一つめ、「テーマに合うネタが思いつかなかった」というコメを何度か見かけたんですが。
それで参加を断念されたりしたなら、もったいないな、と。よくMMD杯を「テーマに沿った動画を作って投稿するイベント」として紹介するメディアやblogの記事を見かけるのですが、全然そんなことはありません。


3. おしえて - MMD杯公式ホームページ
「参加条件についての質問」より

テーマに沿った内容じゃないとダメ?
テーマの読み・解釈は自由です。「そんな解釈で大丈夫か?」「大丈夫だ!問題ない」範囲でしたらOKですよ。


もし作品を「テーマに合わせて」つくらなければならないのだとしたら、「恒例行事」とか「様式美」とか呼ばれている、MMD杯開催のたびに毎回同じネタで投稿される以下のような作品はレギュレーション違反で参加NGとなっているはずです。

この事実が示していることは要するに、「こじつけでかまわない」ということです。
テーマが設定されているのは、そのことで動画制作のヒントになればとか、参加作品のモチーフの幅を拡げたいとか、あと人気順で表彰される作品(いわゆる「第一部」)の対象を増やしたいとか、そういうことなのかな、と自分では思ったりしています。
そもそもMMD杯は「みんなMMDで動画を作って盛りあがろうよ、楽しいよ」ということで開催される“お祭り”なのですから、無闇にハードルを高くして参加しづらくすることは運営の本意ではないのではないでしょうか。


二つめ、「MMD杯が艦隊これくしょんに乗っ取られた」という話について。
前回(第12回)に引き続き今回も、優勝・準優勝・敢闘賞(マイリスト数1〜3位)を艦これが総なめ。他にもMMD杯の公式HPで艦これ関連サイトが特別に紹介されてたとか、ニコニコが今度角川書店と合併、艦これは角川が作っているので裏取引でステマをしているのではないかとか、いろいろ耳にしました。閉会式のニコ生でもそういうことを書き込む人がいて、ちょっと残念な気持ちになったりもしてしまいましたが…(ーー;
いや、ぼくも艦これはやっておらずよく知りませんし(キャラも島風・金剛・大和ぐらいしか名前と顔が一致しません)、上位が総なめされて正直つまらないという思いは共有してなくもありません(^^; ステマは真偽がわかりませんが、わからないのでその存在を否定もできませんし。
そんなぼくが、現状をどう捉えているのか。


上位独占については「コンテンツの勢い」としか言いようがないと思いました。*1 勢いがあるものは相応の「組織票」を持ちます。現在の日本の音楽CD年間売上枚数トップ10はAKB48と嵐に独占されていると聞いていますが、本質的にこれと同じことだと思います。
艦これが好きな人が現在10万人いるとしたら、この人たちがMMD杯投稿作品の中から艦これモチーフのものを選択的にマイリスすることで、どの艦これ動画も10万再生・1万マイリスト(「信頼のマイリス率」が約1割なので)を稼ぐことになります。実際には上下がありますが、それはその作品のモチーフや質によってファンの中でも評価が分かれたりだとか、ファン以外からの得票もあることによります。
たとえば、MMD杯を見る視聴者の中にボカロファンが5万人、東方好きが3万人、アイマスPが1万人だったとしたら、集票基盤の規模が違うわけですから、それは上位総なめにもなるわけです。


それに、ぼくは「上位入賞に値する作品は他にもある」とは思ったものの、実際上位入賞した艦これ作品について「これは上位入賞に値しない」とは思いませんでした。それだけのクオリティはあったと思いますし、ぼくは投稿者ではなく、それらが上位入賞することで自分の作品が蹴落とされることもないので、実質的な“被害”を被ることもありません。*2
3賞から蹴落とされたとして、各テーマの松竹梅は決して艦これが占めていたわけでもありませんし、運営や選考委員が好き勝手に選んでいる第二部(MMDファンにはむしろこちらが「本編」と見なされている)もそうでした。
運営がエコひいきしているという話であれば、第二部こそ艦これ作品ばかり選ばれてもおかしくなかったと思いますが、結果はむしろ逆で、運営は本件に関して「バランスをとった」のではないかと思われるほどです。選考委員に自衛隊まで出てきたのに、選ばれたのは艦これ色の薄い「まもるくん」ですよ?(^^;


艦これに関してこれだけ云々されるのは、ぼくは単純に「勢いがよすぎる」ためだと思っています。
自分の住んでいるところが人口100人のムラだったとして、そこに「1人」の外来の人物(stranger)が訪れたところで、何と言っても1/100の(影響)力しかもたないわけですから、その人の存在はムラ人のアイデンティティを脅かさずに新しく・珍しい・貴重なものを運んでくる“マレビト”(客人、稀人)として歓待を受けることでしょう。
ところが、外来者の人数が「100人」となると話は別です。原住民であったムラ人はともすると“少数派”に転落するかもしれない。これは相当のアイデンティティクライシスで、だからこそそんなときにムラ人は「俺たちのシマに何の用だ」という出方に出ることになります。ただ人数が増えたという、そのことだけで。
どんなコンテンツも、「盛者必衰」というとアレですが一時期盛りあがってもしばらくすると落ち着いてくるものですし、また出始めの頃に拒否感・忌避感をもったとしてもそれが「普通」になってくるにつれて受け入れられるようになるものです。歴史を振り返ってみれば、ケータイも、インターネットも、TVも漫画も、ラジオも、そして小説も野球も、みんなそのようにして「普通」になっていきました。*3


もう一歩踏み込んだポジティブな評価をするなら、艦これMMDが盛り上がることで、MMD界隈での「海」の表現が爆発的な進化を遂げたようにぼくは感じています。
また、たとえば学園ものみたいなMMDドラマをやりたいときに、違和感なく使えるモデルは「モブ子」をはじめ少数のモデルに限られていましたが、艦これにはセーラー服を着たモブっぽいキャラがたくさんいるので(^^; そうした映像も作りやすくなったのではとも思います。他にも、艦これによって進歩したことは実はいろいろとあったりするのではないでしょうか。
原理的に考えれば、新しいものの登場はプラスをもたらしこそすれマイナスをもたらすわけではないだろうと。たしかに3賞は決まった枠の取り合いなので艦これが占めた分だけ他が割りを食うことになりますが、MMD杯はそもそも「上位入賞することを目指す大会」でもないだろうと思いますし。


そして三つめ。せっかく引き受けていただいた選考委員に対して、あまりこういうことは言いたくないんですが…
MMD杯は「みんなMMDで動画を作って盛りあがろうよ、楽しいよ」ということで開催される“お祭り”、だとぼくは思ってます。大事なことなので二回言いました。言いたいのはそれだけ。*4
あ、でも、今回のMMD杯でぼくが一番好きになった作品、ドロヌマPの「大回転おにぎり」を選んでいただいたことは大変感謝しております。ありがとうございましたm(_ _)m

*1:いわゆる「工作」の影響がないとは言えませんが、どれぐらいあるかわかりませんし、他のジャンルにそれが無いことも証明できませんので、これ以上言及しません。

*2:ここでは「被害」という言葉をあえて使っていますが、引用符でくくっていることからもわかるように、自分がもし投稿者として参加したところで、この場合の被害・実害ってなんだっけね、と思っています。「MMD杯受賞を取り逃す」ことを被害と認識してしまうのだとしたら、なんか人間として小さくないかな、と。
それとも自分がよく知らないだけで、MMD杯受賞者は何かしら大きな実利を実は得ていたりするのでしょうか…? だとしても、機会費用のプラスが無くなるだけで、マイナス(被害)は誰のもとに降りかかるというのでしょうか。

*3:小説や野球も、出てきたばかりの頃は敵視されて、「青少年の育成に悪い」とか何とか言われた過去をもっているのです。こちらを参照のこと。→ニコニコらしさって? 落穂ひろい - hideo's hideout.

*4:それ関係で昔書いた記事はこちら。→ニコニコの近況 - hideo's hideout.