生活リストラ作戦へのアドバイス

最後は、読んだ本に共通するアドバイスのまとめ。

まずは借金と住宅ローンについて。

  • 借金があるなら、それを返すことのほうが投資を始めるよりも先決。借金の金利は投資による期待リターンをはるかに上回るため、長期に保持すると複利効果で投資のリターンを食い尽くす。投資の期待リターンはがんばって年5%だが、借金の金利は5〜20%が相場。
  • 家は、新築を住宅ローンを組んでまで買うべきではない。住宅ローン=借金。それも、一般家庭にとってはこれ以上無いほど高額な。長期で払うから年間の支払額が抑えられて「有利」だ、という考え方は金利の常識からして間違っている。
  • 持ち家には固定資産として投資する価値があるという考え方も、投資家としては非常識。これが家でなく株だとしたら、「常に目減りを続ける上もの+はっきりしない土地」という価値をもった資産に対して、超長期に渡って全力投資するようなもの。要するにハイリスクローリターン。*1

住宅ローンによるリターンのマイナスは大きい、ということについては議論の余地が無いようでした。
ただ、では家はどうすればよいのか、ということについては意見のわかれるところもあり、そのリターンの影響を無くすために「賃貸」または「買い切り」を勧める人が多かったように思います。要するに、ローンの金利を取るな、ということですね。
一方、ローンを組んでもよいという著者は必ず「最初期の繰り上げ返済」を勧めています。金額や金利によりますが、最初期にボーナスを使って100万円繰り上げ返済すると、トータルでは100万、200万のローンの減額ができる、というような例が掲載されているものもありました。


次に投資。

  • 投信については、アクティブ投資よりインデックス投資のほうが、コストが小さいぶんだけ有利。日経平均TOPIXのような指標(インデックス)はアクティブ投資の勝ち負けの平均値であり、そこから手数料等のコストを引いたぶんがリターンになるため。要するにアクティブ投資とインデックス投資は粗リターンの期待値は一緒だが、純リターンとの差分であるコストが、一般に「アクティブ投資 > インデックス投資」であるため、最終リターン(純リターン)は「アクティブ投資 < インデックス投資」となる。
  • 日本株式のインデックスとしては「日経平均株価」と「TOPIX」がその代表で、歴史が長いぶんだけ前者に権威があるが、日経平均は景気の指標としてはできが悪く信用ならない。それは上場株式から恣意的に選ばれた225銘柄の現在株価の単純平均であり、次に見るような不都合がある。時価総額でなく一株単価につられるため、比較的小さな会社の業績に左右される。同じ理由で、景気がよくなって株価が高騰し株式分割が行われると、好況なのに指数が下がる。また、銘柄の入替えが発表されると脱落株の売りが生じ、景気には何の変化もないのに指数が下がる。*2
  • 「どの銘柄を買うか」よりも「どの種類の資産をどんな割合でもつか」という資産配分(アセットアロケーション)のほうが投資のリターンの期待値に大きく寄与する。そのため、投資に当たっては何よりもまず目標とする資産配分を決定することが必要。
  • 「外貨預金」はやってはいけない。ネット証券の外貨MMFに比べて次の5点(要するに、すべて)において不利。1、金利が低い。2、流動性が低い。3、為替手数料が高い。4、為替差益に税金がとられる。5、保証が無い。*3 *4

投信の中には毎月配当を出すものがあり(「毎月分配型」と呼ばれます)、むしろこのかたちの投信のほうが人気があります。その理由は、投資人口の多くを占める「高齢者」が月収をあげる方法として選択しているのだろう、ということです。
ところで、この「毎月分配」が理論的には資産運用の方法として「不利」なことは確かです。というのも、分配金とその税金とが投信からどんどん流出して元手が縮小していってしまうため、配当せずにそのまま運用した場合に比べリターンが明らかに落ちること、そして、中には「利益度外視」で分配を決行する投信もあるので(なぜなら、受益者である高齢者が月収の不安定性を嫌うため)よけいに成績が悪くなること。
ただ、一部の投資blogでも話題になったことがありますが、理論的に不利であることと、実務上不利かどうかということは別問題であって、実際にはそこまで不利ということもないのじゃないか、という話もありました。主に債券に投資する投信についてでしたが、話の主旨としては、投資対象から得た配当利益は実務上再投資に回すことができずにそのままキャッシュとして寝かせておく場合があり、それなら分配してしまったほうがむしろ受益者にとっては利益が上がることになる、というような感じで。もちろん素人のぼくには判断がつきません(^^;


もう一つ人によって意見の違っていたことといえば、これは主に「主義」に関わる立場の違いということになるでしょうが、重要とされた資産配分をどうするか、とりわけ国内資産と海外資産の割合をどうするかということについては大きな意見の対立がありました。
一つ明らかなこととして、今後の日本は、戦後のイギリスのように、あるいはそれ以上に「没落していく」ということです。日本はGDPが世界第二位の「経済大国」を名乗っていますが、今年中に中国に抜かれる予想となっており、そして十年後二十年後の日本はそこらの先進国並に落ち込んでいきます。アメリカや日本の企業が中国につくった工場で「本国からきた社員と現地労働者の待遇の差が」云々でストがどうとかいったニュースが流れていますが、日本については、十年後二十年後にはその立場が逆転しているかもしれません。
つまり、個人投資家の合理的な損得の話をするなら、この先いつまでも日本企業に賭けつづけるのは明確に「不利」なことであり、非合理的なことなのです。*5
ことここに至って、日本株式への投資は完全に「趣味」あるいは「好み」の問題、ということになってしまうでしょう。世界の強豪チームに勝てないことがわかっていてもサッカー日本代表を応援する気持ちとそれは同じでしょうか。いいえ、違います。なぜなら、サッカー日本代表には(日本のサッカーの歴史が浅いぶんだけ)「伸び代」があるのに対し、日本の経済力の未来にはそれが無いからです。それでも日本に投資しつづけるべきなのでしょうか…?


最後に、保険と金融業との付き合い方。

  • 保険は、特約のつかない単純な死亡保険、その他は火災保険や自賠責保険ぐらいにとどめること。ふつうの健保には高額医療費制度もあるので、さらに保険会社の医療保険に入るのはただの無駄。また、もしものときは生活レベルを落とすことを前提に、「ほんとはいくら必要なのか」ということから入る保険を考えないと、払い過ぎになってしまう。保険は人生で家の次に高価な買い物であることをよく肝に銘じること。
  • 証券会社と保険会社はネット企業を利用すること。リアル企業は対面業務があるぶんコストがかさみ、それがすべて利用料に乗ってくる。また、対面業務のなかで営業・勧誘も受けることがあるが、営業・勧誘するのはそれが会社の利益になるからであり、そのような商品は基本的に、会社の利益として抜かれるぶんだけ客の取り分が減るとか、リスク商品ならリスクばかり客に押し付けられて利ざやを稼がれるなど、客が損をする・損をかぶる仕掛けになっている。
  • 売る側と買う側でこうもきれいに利害が反するのは、金融商品が「お金」そのものを商材としていて付加価値をもたないためであり、必然的。投信や保険に詐欺的なものが多くトラブルが絶えないのは、そもそもこの商品の本質からしてある種の宿命と思ったほうがいい。そういうわけで、コスト(=売る側の利益)のできる限り小さいものを選ぶことが利益を得る一番の近道。

よく言われる「余裕資金で投資をすること」については、その余裕資金とは別に確保しておかなければならない生活防衛資金が、人によって「給料3ヶ月分」だったり「2年分」と言っていたりしたので、そこは各人でご検討ください、ということで。
ぼくの場合は、前職のときにあった預金額を生活防衛資金の目安としました。現在の年収より少ないですが、その額でも不安なく生きてきた実績があるので、生活レベルは当時も今も変わりありませんし、これでいいんじゃないかな、と。

*1:ただし、そのようなことは人生について言えば家に限った話ではありません。誰の子どもとして生を受けるか、どんな素質をもっているか、どの会社に就職するか、誰と結婚するか、どんな子どもができるか/育つか、いつの時代のどの国に生きるか。それらはすべて同じように人生を大きく左右するハイリスクな賭けに他なりません。危険なギャンブルをせずに済ませられることは、人生の中で意外にわずかです。だからこそ「愛と勇気とサムマネー」とでも言って強がらなければやってられないのかもしれませんが(^^; どうしようもないこと・避けようのないこと以外のリスクは、できる限り管理可能なレベルに落とし込むことで、なけなしのリターンを死守すること。ぼくにとっての投資のイメージは、けっこうそんなもんだったりします。

*2:「株価」は、株式を買ったことがあればわかりますが、その会社の規模や実力といったものを正確には表わしません。起業当初は買ってほしいので安値をつけても、だんだんと、あるいは何かの拍子で、株価は上がっていきます。その際、もっと多くの人に買ってほしいと思う企業は株式分割して値段を下げますし、そうでもないところは高値のまま放置します。株価が安いからといって必ずしも評価が低いということにはなりません。たとえば、三菱UFJダイエーの一株単価は2010年7月現在400円超ぐらいでほぼ同等ですが、日本を代表するメガバンクと破綻後再建中のスーパーを「ほぼ同等」とは誰も思わないでしょう。会社の実力を見るのに「資本金」「純資産」を重視するのなら、株式で言えば「時価総額」(=株価×発行株式数)で見ないとつじつまが合いません。インデックスとして日経平均がよくないことは、次の記事でも指摘されています。「第九十五回 ポートフォリオとしての日経平均 | 山崎元のホンネの投資教室 - 楽天ブログ

*3:金利:今現在は不景気で諸外国の政策金利が低く抑えられているため差が小さいですが、サブプライム前を例にとると、米ドル金利が預金0.3%に対しMMF4%ということもありました。流動性MMF普通預金に似ていつでも引き出し可能ですが(購入後1ヶ月間引き出し不可、となる場合もあるようです)、預金の場合は定期か普通になります。定期預金の場合はMMFに比べて流動性で劣り、普通預金の場合はただでさえ低い金利がさらに低くなります。手数料:リアル金融機関の相場は1米ドルで為替手数料が往復2円、ネットの相場は50銭です。為替差益の課税:外貨預金は雑所得の総合課税(最悪!)になるそうです。MMFにはかかりません(※、後述)。分配金への課税はどちらも同じで分離課税です。保証:その金融機関が万一つぶれた場合、預金の場合はペイオフも無くてすべてがパァになりますが、MMFは投信なので預けたぶんは信託銀行で保管されているため無くなりません。

*4:※: …と思ってたんですが、これは楽天証券のように「円から直接外貨MMFを買う」方式の場合にのみ当てはまることで、SBI証券ソニー銀行のような「まず為替取引(円で外貨購入)した後で外貨MMFを買う」方式の場合は外貨預金同様に雑所得の総合課税とのことでした。外貨の状態でもっている区間が「外貨預金」になるため、らしいですが…。これはショック(TT) みなさん、外貨MMFをやるなら、SBI証券ソニー銀行以外のところにしましょう。

*5:もう少し正確に言えば、GDPというのは「国内」の市場規模を表わす指標ですから、賭けつづけてはいけないのは「日本企業」というより「国内市場」なのです。先ごろ楽天は「英語の社内公用語化」を打ち出して話題になりましたが、それぐらいやっておかないと今後行き詰まるのではないかという気はたしかにしています。