マトモな哲学のすすめ(2)

マトモな哲学のためのブックガイド

というわけで、ぼくがこれまで読んだ中で「マトモな哲学を始めたい」という人に推薦できる本をいくつか紹介してみようと思います。入門書なので、「前提知識をほとんど必要としない」ということを念頭に置いてピックアップしてみました。一応その第一弾ということで。


詭弁論理学 (中公新書 (448))

詭弁論理学 (中公新書 (448))

ムリヤリ自分の主張を通す「強弁」、あるいは言い回しによってうまく人を言いくるめる「詭弁」から、論理パズルまでカバーしたエッセイ(?)。「魔女狩り」裁判で人が“魔女”と認定されるプロセスのフローチャートとか、分かれ道に立つチャーチルヒトラーのパズルとかいろいろと目を引く話が多く、最初のとっかかりとしていい本ではないかと思います。『逆説論理学』ISBN:4121005937ります。


修辞的思考―論理でとらえきれぬもの (オピニオン叢書)

修辞的思考―論理でとらえきれぬもの (オピニオン叢書)

議論の説得力は大まかに分けて二つの部分に依拠しています。一つはロジック(論理)。その議論の筋の通し方によって説得力をもつ部分を担当しています。もう一つはレトリック(修辞)と言いますが、まったく同じ内容のことでも、言い方・言い回しによって説得力が強まったり弱まったりするのです。うまく使えば、ウッカリさん相手なら白を黒と言いくるめることすらできます。「おまえ、バカだけどいい奴だな」と「おまえ、いい奴だけどバカだな」という二つの文は似て非なることを言っていますが、こうしたものがレトリックの典型です。
マトモな哲学にとってレトリックに訴えるやり方は正道とは言えませんが、おかしな(トンデモ)議論にはこれを駆使するものも多いので、敵の術中にハマらないためにも学んで免疫をつけておく必要があるでしょう。この本は、伊藤整「青春について」といった文章を素材に、レトリックの知識でレトリックを退治するやり方を伝授してくれます。けっこう痛快。


クリティカル進化(シンカー)論―「OL進化論」で学ぶ思考の技法

クリティカル進化(シンカー)論―「OL進化論」で学ぶ思考の技法

「口車」に乗せられないための方法として、心理学の立場から突きつめられたものが「批判的思考(クリティカルシンキング)」という分野です。類書はたくさんありますが、この本が一番とっつきやすいことでしょう。
このヘンな書名は、「批判的思考者(クリティカルシンカー)」と、挿絵のネタ元になっている秋月りすの4コママンガ『OL進化論』に由来しています。一つの項目につき一つ、「OL進化論」の中から4コマを選びだして、それを肴に批判的思考の方法を説明する、という体裁をとっています。


論理トレーニング (哲学教科書シリーズ)

論理トレーニング (哲学教科書シリーズ)

論理トレーニング101題

論理トレーニング101題

一種のワークブックです。国語の授業で触れたことがあるでしょうが、接続詞による議論の接続関係とか、これが言えるからあれも言えるといった議論の前提条件や包含関係の話といったことを具体的に学ぶことができます。この本で学べる内容は哲学以外にも「議論」の存在するあらゆる分野に当てはまるので*1、その意味でも読んで損することはないはずです。逆に、この本で述べられている“基本”ができていないものは、「トンデモ」と見なして差し支えないと思います。
ベストセラーになったからか、続編の『101題』が出ました。この二冊は内容がほぼ一緒で「理論編」と「実践編」という感じ。どちらか一冊ということであれば、後から出た『101題』のほうがスッキリまとまっていておすすめです。


論理パラドクス―論証力を磨く99問

論理パラドクス―論証力を磨く99問

古今東西の有名な論理パズルをたくさん集めたパズル本、という感じの本です。「真」「偽」「矛盾」といった基本的な論理学用語が少数とはいえ説明なしに出てくるあたり“入門書”と言い難い面もありますが、登場する問題は「クレタ人のパラドックス」のようなごく基本的なものから「自殺の権利」や「タイムパラドックス*2までと幅広く、楽しめると思います。『論理サバイバル』ISBN:4576030779、『心理パラドクス』ISBN:4576041681ています。
この本を読む上で一番重要なのは「解答編」でしょう。それぞれの問題に対して哲学者はいったいどのように答えるべきか、“厳密に正しく考える”とはこういうことだ、という実例を示すケースブックとして読むことができます。ここを読むと大変勉強になるのではないでしょうか。


逆転裁判 蘇る逆転

逆転裁判 蘇る逆転

本ではありませんが、自分の趣味で入れました(^^;
「推理アドベンチャー」と言えば、プレイヤーかその近しい人物が「探偵」をしており、いろいろな場所を調べたりさまざまな人の話を聞いて、最後に探偵がプレイヤーの意思とは無関係に自分の推理を披露して終わり、というのがパターンだったと思います。ところがこのゲームは、“プレイヤーに考えさせる”真の意味での「推理」ゲームであったほとんど最初の例であるばかりでなく*3、単に「推理」するだけではなくて、人を告発するにはそれに足る「証拠」が必要であること、そしてその両者を通して「証明」することの重要性を訴えた点で画期的でした。
このゲームのプレイを通して、『逆転裁判』という作品自体の“ムジュン”にまで思い至れるようになれば、それはそれですばらしいことだとぼくは思っています。


次回につづきます。

*1:哲学は「学問の基礎の学問」なので当然といえば当然のことではあります。

*2:タイムトラベルして過去の時代に行き、その時代の“自分”を殺したら“この”自分はいったいどうなるのか、という問題です。

*3:御神楽少女探偵団』や『クロス探偵物語』といった作品があるのは知ってます、念のため。